ご高齢の方の歯科治療やお口の予防、口から衰えて全身に不調和をきたす「オーラルフレイル」についてご説明します。
高齢者の歯科治療
ご高齢の方で初めての歯科医院に行かれる時や、久しぶりに歯科治療を受けられる時は下記項目を歯科医師やスタッフに必ず伝えてください。
- 患っている病気や病歴
- 常用している薬やアレルギー
診察前の問診で病歴や服用中の薬について聞かれると思いますが、言い間違えや言い忘れがないようメモに書き出しておいたり、薬の説明書などを持参したりしましょう。
また、抜歯や出血を伴う処置や外科的治療が必要な場合は、感染症や合併症を起こす危険性があるので歯科医院では処置できないことがあります。
その様な場合は大学病院などの高次医療機関を紹介してもらうことになります。
かかりつけ医
ご高齢になるほど何でも気軽に話せて、相談しやすい「かかりつけの歯科医」をもつと良いでしょう。
もし、かかりつけ医が訪問診療をしていれば、介護を受けることになった場合でも訪問診療を受けやすくなります。
何よりも患者さまの歯科治療歴や病歴、性格を把握しているので歯の治療も進みやすくなります。
また、患者さまにとっても緊張せずに接することができる安心感は、前向きに歯科治療するうえでとても重要になるでしょう。
高齢者の歯の予防
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高齢者の歯の病気で最も多いのが歯周病です。歯周病は歯を支えている歯茎や骨の病気で約7割の方がこの病気にかかっているというデータもあります。歯周病の原因は歯と歯茎の隙間にたまった細菌なのですが、気づかないうちに繁殖するので、歯肉が赤く腫れる歯肉炎になったり、歯を取り囲む骨が溶けたり、歯が抜け落ちてしまうことまであります。
痛みがないので気づかないうち進行する怖い病気です。昔は、歯が抜けるのは老化現象のひとつと考えられていましたが、それは大きな間違いです。歯周病は子供から大人まで誰でもかかる病気だということを認識しなくてはなりません。
また、歯周病と虫歯のなりやすさはイコールではないことも知っておきましょう。
虫歯は予防歯科が発達した今、コントロールしやすい病気になりましたが、歯周病はまだこれからといった段階です。とは言え、歯周病を過剰に恐れる必要はありません。確かに重度になると怖い病気ですが該当するのは全体の10%未満に過ぎません。多くの方は歯周病の原因である細菌をコントロールすることで、歯周病の進行を止めることができます。周病を防ぐには「家でのケア(歯磨き)」と「歯医者の定期検診」が不可欠です。
実際きちんと家で歯磨きをしても歯周病を完全に予防するのは難しいのが現状です。
その為、お口の状態を定期的にプロに確認してもらいケアしてもらうことが望ましいと言えます。
食べることは人生において最大の楽しみのひとつです。
ところが、食べるために必要な歯が痛んだり、失われると食事の楽しみが奪われるだけでなく体調にも支障をきすことがあります。そこで、このようなことを防ぐために行われている歯の運動についてご紹介します。
8020(ハチマルニイマル)運動
1988年に当時の厚生省と日本歯科医師会が8020運動をスタートさせました。目的は親知らずを除く28本のうち最低20本残っていれば不自由なく食事ができるということで80歳で20本の歯を残そうという運動です。
2008年には4人に1人が達成できるようになったのですが、この時の80歳代全体の歯の残存数は平均5~6本しかありませんでした。これは、達成者以外の方の歯がほとんど残っていないと言う健康格差を示しています。
5525(GoGoニーゴー)運動
岡山市歯科医師会は8020運動を一歩進め、55歳までに25本の歯を残そうという5525運動を提唱しています。
その理由は日本人の80歳代の歯の保有数が平均5~6本と少なかった為です。そこで、8020運動よりも設定年齢を大幅に引き下げて自分の歯を残すために、早い年齢から歯に関心をもってもらえるようにしたのが5525運動です。
歯を残す数にも根拠があり、ほとんどの食材を食べるために必要な数として25本を設定しています。
高齢者の入れ歯
高齢者の歯の相談で多い治療のひとつが入れ歯です。その中で最も多く寄せられる相談が「入れ歯が合わない」「合わない入れ歯だと気分も体調も優れない」などです。ですが、どんなに良くできた入れ歯であっても人工的に作った入れ歯は、自分の歯と同じようにはいかないのが現状です。
また、保険内と保険外の入れ歯でも大きく違ってきます。そのうえ、違和感の感じ方は個人差があるので、どの入れ歯が合うか一概には言えないのが難しいところです。だからといって、入れ歯を使わないでいると食事が困難になるだけでなく、顎関節に負担がかかりすぎて姿勢が悪くなったり、歩行困難になることまであります。
例えば、いつも歩いていた坂道が登れなくなったご高齢の方がいました。本人やまわりの方は筋力が弱ってきたのが原因と思っていたのですが、実は奥歯でしっかり噛むことができないのが原因でした。その証拠に入れ歯を入れた途端に坂道を登ることができたのです。
当院でも、寝たきりで気力が衰えていた方が、入れ歯にしてから散歩できるまで回復したケースを体験しています。歯を失った時の治療法は人によってできるかどうか個人差がありますが、新しい技術で作られた入れ歯やインプラントや失った骨を元に戻す治療法などがあります。
お口は敏感な器官ですから、今の入れ歯が合わない方は専門医に相談してみましょう。
訪問歯科診療
介護保険が導入されたことで、訪問歯科も昔に比べ認知されるようになりました。訪問診療ではレントゲンや歯を削る道具などポータブルな治療ユニットをもった歯科医師や歯科衛生士が、患者さまのいるご自宅や施設で診療をおこないます。
※患者さまが内科にかかっている場合は、主治医との連携治療が必要になります。
主な診療
- 抜歯
- 入れ歯の型どりや補修
- 歯科衛生士による口腔ケア(歯磨きなど)
寝たきりになると、歯のことは後回しにされやすいのが実情です。中には要介護者の方が入れ歯かどうかを身内の方が知らないこともあります。その為、要介護者の方が急に食欲がなくなったと思ったら、歯茎がやせて入れ歯が合わなくなっていたり、入れ歯が割れて口内に炎症が起きていたりすることがあります。その為、介護する方は要介護者の方のお口の中も定期的に見てあげましょう。
そして、何か異変を感じたら訪問診療をおこなっている歯科医院を利用してください。
訪問診療は誰でも気軽に利用できるシステムです。地域によって管轄は違いますが、たいていは地域の歯科医師会に連絡をすれば訪問診療をしてくれる歯科医院を紹介してもらえると思います。ほとんどの歯科医院は昼休みや休診日を訪問診療に当てています。その為か依頼者や患者さまが遠慮するケースが多いのですが、遠慮せず利用してください。
口からの衰え「オーラルフレイル」
オーラルフレイルとは、口から衰えることで全身的な不調和をきたすことです。
この概念は東京大学高齢社会総合研究機構の「辻哲夫」特任教授や「飯島勝矢」教授らによる厚生労働科学研究によって示されました。
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日本は2050年に国民の4割が高齢者になると予測されているので、自分だけでなく家族のことも考えたうえで知っておきたい知識になります。
オーラルフレイルは、高齢になり筋肉現象をきたすサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)の前段階とも言われており、高齢の方は自立度が低下した時に注意が必要です。
Q.あなたはオーラルフレイル?
自分がオーラルフレイルじゃないかと気になった方は、今から紹介する3つの項目を確認してください。
食べこぼしが増えた
昔に比べて、食べこぼしが多くなった方は咀嚼機能の低下が考えられます。この症状がでると「食べにくくなる→栄養不足や偏りがでる→身体機能の低下」になりやすいので注意が必要です。
飲む時にむせる
昔に比べて、飲む時にむせやすくなった方は嚥下機能の低下が考えられます。
話す時に発音しずらい
例えば「カキクケコ」「パピプペポ」「ラリルレロ」などの発音がしにくくなった場合は発音機能の低下が考えられます。この様な症状がでると「発音が悪くなる→コミュニケーションが難しくなる→社会的に孤立」になりやすいので注意が必要です。
オーラルフレイルの予防法
誰もがオーラルフレイルやサルコペニアの状態にはなりたくないはずです。そこで予防法をご紹介します。お口や身体の健康を保てるよう意識して生活をしましょう。
- バランスの良い食事を取る
- 運動を続ける
- 社会性を保ち、孤立しない
- 75歳までにしっかり歯の治療をしておく