歯科衛生士M
今日から歯科衛生士Mが1年間の産休育休に入る。
昨日は彼女の産休まえの最後の仕事の日だった。
彼女は当院が9年前始めて歯科衛生士学校の実習医院に
指定された時の当院初の実習生だった。
実習初日から、はきはきとした明るい笑顔、いつも他人の気持ちを考えて行動する頭の良さ、回りに対する気配り心配り、そういった面が私達が教える前から彼女には備わっていた。
本当に素晴らしい学生さんだった。
彼女自身が努力で獲得した面もあれば、おそらくご両親が愛情深く育てられ、なおかつ、しつけには厳しく教育されたのだろうと想像できた。
「卒業したらぜひ当院に就職してもらいたい!」
院長の私は心から強く願ったものだ。
強く何度も何度も心の奥底から願えば、その願いは必ず実現する!
彼女が当院に就職したいと言ってくれた時、
本当に私は神から大きなプレゼントを貰った様な気持ちになったことを覚えている。
そして彼女は正式に当院の常勤の歯科衛生士となった。
頭の良い彼女は衛生士の仕事を素早く覚えた。
患者さんの情報を数多く覚えた。
優しい言葉を担当した患者様に与え続けた。
そして当院にも大きなギフトを与え続けてくれた。
お昼の休憩時間に彼女に花束を贈るかどうか?私はここ数日
真剣に悩んでいた。
彼女は1年間産休育休に入るだけで、当院を卒業するわけではない!
必ず当院に帰ってくるのだ。
それも二人目の出産を無事終えて、今よりひと回りもふた回りも大きな人間となって!
結婚を機にそのまま退職するスタッフには花束を贈るのだが、彼女はしばらく医院を休むだけなのだ。
しかし今までの彼女への感謝の気持ちを現すためには花束しかないと思って、急遽、昼休みにスタッフに召集をかけて、彼女に花束を贈った。
上のお子さんが急に熱を出して保育園から呼び出しを受けた彼女は
予定より1時間早く仕事を終えないといけなくなった。
私は両手を差し出して「ありがとう!元気な赤ちゃんを産んでね!」と彼女と強く握手をした。
「院長!初めてです!!」と彼女は言った。
私は情けないことに、今までずっといっしょに診療室で過ごしてきた大切なスタッフと握手すらしたことが無かったことに、今更ながら気がついた。
「厳しい院長になって下さい!」彼女は決して口には出さなかったが
彼女の思う気持ちは私には十分に伝わった。
あなたがいないこれからの1年間!私、そして当院は変わる。
1年後、スタッフへの大きな愛情の中に、仕事に対する厳しさを兼ね持った院長になった私を見て彼女は一体何と思うのであろうか?