金婚式
思い切って恥も外聞も
かなぐり捨てて、
捨てっぱちの行動を続けるも、
なかなか結果が出ない!
しかし、1つだけうれしいことがあった。
あれだけ飲み会が連日続くのに、
私の体重は減少の一途をたどる!!
昨日から、いよいよ久しぶりの64キロ台に突入!
体重減少はうれしいのだが、この減り様はちょっと心配!!
昨日急きょ、医院に1本の電話が入った。
長年、寝たきりを続けているNさんの前歯が全て取れたと言われるのだ。
今日のお昼休みに、私は1人で往診道具を車に押し込んで、
Nさんのお宅に急ぐ!!
Nさんは、若い時から重度のパーキンソンとリウマチの持病で寝たきりとなり、
御主人の介護は週十年にも及ぶ。
その御主人の献身的な介護ぶりは、数年前にはNHK教育放送で
全国ネットで取材されたほどだ。
Nさんが病院を退院されたときは、自宅を伺った私の問いかけにも
Nさんはほとんど答えられず、胃に直接穴を開けて、
栄養剤をそこに流し込んでいて、口からは全く物を食べていなかった。
御主人と、ナースをされている娘さんの強い要望で、私は往診で
Nさんの入れ歯を作ることになった。
入れ歯が出来あがるころには、リハビリも順調に進んで、
Nさんは半年以上かけて、胃の穴を塞いで、
全ての栄養を口から食べるまでに回復された。
しかし、持病は治らないで、寝たきりの状態は
今でも変わっていない。
そのNさんの今では唯一残っていた前歯6本が、
ついに土曜日に完全に取れてしまった。
私は強力な歯科用の接着剤を持参してNさんのお宅に急いだ。
接着剤で前歯を付けている時に、私は、車椅子の横の
「山陽新聞」と書かれた大きな袋が目に入った。
私の視線に気がついたNさんのご主人が私に
「先日、金婚式の祝いに二人で参加したんです!」
それなら私は新聞で見たことがあった。
「800組以上の夫婦が集まったのですが、
私の妻のような車いすでも
最前列に席を用意してくれるのです。」
「金婚式って結婚して、何年ですかね?」
私は御主人に尋ねた。
「50年です。しかし50年の半分以上は
妻はずっとこのような状態です!」
Nさんのご主人は、病気の奥さまの介護を
30年近く続けられている。
私は結婚して、たった20年!
それでも毎日ガミガミと喧嘩をする。
Nさん夫婦と私たち夫婦の違いって?
何とか前歯をくっつけて、私はNさんのお宅を出て、
車に荷物を積んでいた。
そこに、Nさんの御主人が手に荷物を持って、
家を出て来られた。
また何か私は忘れ物をしたか?
いやそうではなかった。
「本を出したので、ぜひ読んでください!」
そう言って私に2冊の本を渡してくれた。
「1冊はいつもお世話になっている衛生士の
Oさんに渡してもらえますか?」
うれしかった。
本の内容は、介護をしながら、妻の介護について
Nさんのご主人が短歌を詠んだものをまとめられていた。
「一日一日急速に衰へゆく妻よ今日より薬を砕いて呑ます」
「往診にて部分入歯を取付けし妻は胡瓜を音たてて噛む」
「苦しみの多きすぎゆきわれに来て50年なる妻を愛しむ」
涙が止まらない!!