歯科技工士さんが不足しています!――日本の歯科医療を支える「縁の下の力持ち」を守りたい
歯科技工士さんが不足しています!――日本の歯科医療を支える「縁の下の力持ち」を守りたい
岡山なかの歯科・矯正歯科クリニック院長の中野浩輔です。
今朝 、日本経済新聞を読んでいて、歯科医師として非常に気になる記事を見つけました。
見出しには大きく、
「歯科技工士なり手不足」
「低賃金を敬遠、50代以上過半に」
と書かれていました。
実はこの問題、私たち歯科医療の現場では以前から大きな問題になっています。
皆さんは「歯科技工士」という職業をご存じでしょうか?
歯科医院には歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、受付など様々な職種のスタッフが働いています。
しかし、患者さんからは直接見えにくいところで、歯科医療を支えてくれている大切な専門職がいます。
それが歯科技工士さんです。
虫歯を治療した後の被せ物、セラミックの歯、入れ歯、インプラントの上に装着する歯など、患者さんが毎日使う「歯」を実際に作っているのが歯科技工士です。
私たち歯科医師がどれだけ丁寧に治療をしても、最後に入る歯の精度が悪ければ良い治療にはなりません。
特に当院ではインプラント治療やオールオン4、オールオンXなど、多くの歯を同時に作る治療を数多く行っています。
こうした治療では、歯科医師と歯科技工士との連携が治療結果を大きく左右します。
私は常々、「歯科医師と歯科技工士は、車の両輪である」と思っています。
どちらか一方だけでは、質の高い歯科治療は成り立ちません。
ところが今、その大切な歯科技工士さんが全国的に不足しているのです。
今回の新聞記事では、歯科技工士の高齢化が進み、50代以上が過半数を占めると報じられていました。
さらに、若い人たちが歯科技工士という職業を選ばなくなっている現状があります。
歯科技工士になるための学校に入学する人そのものが減り、学校によっては学生の確保が難しくなっています。
これは本当に深刻な問題です。
今の50代、60代のベテラン技工士さんたちが引退する10年後、20年後、日本の歯科技工は一体誰が担うのでしょうか?
歯科技工士がいなくなれば、困るのは歯科医院だけではありません。
最終的に困るのは患者さんです。
入れ歯を作りたいのに時間がかかる。
被せ物を作るのに何週間も待つ。
高品質なセラミックやインプラントの歯を作れる技工士が見つからない。
そんな時代が来ないとは言い切れません。
今回の記事で興味深かったのが、こうした人材不足を背景に、海外からの留学生を歯科技工士として育成し、日本での就職につなげようという取り組みが始まっていることです。
日本の歯科技工技術は世界的に見ても非常に高いレベルにあります。
しかし、その素晴らしい技術も「人」がいなければ次の世代へ継承することができません。
一方で歯科の世界も急速にデジタル化しています。
昔は歯の型を取り、石膏模型を作り、技工士さんが手作業で歯を作ることが中心でした。
現在は口腔内スキャナーでお口の中をデジタルデータとして取り込み、コンピューター上で歯を設計し、ミリングマシンや3Dプリンターを使って製作する時代になりました。
AIも確実に歯科技工の世界へ入ってきています。
では、将来は歯科技工士が必要なくなるのでしょうか?
私はそうは思いません。
むしろデジタル技術を使いこなしながら、歯科医師の治療意図を理解し、患者さん一人ひとりに最適な歯を設計できる「デジタル時代の歯科技工士」の価値は、ますます高くなると思っています。
機械は歯を削ることはできます。
AIは歯の形を提案できるようになるでしょう。
しかし、
「この患者さんには、どんな歯が一番自然なのか?」
「どのような噛み合わせなら長く安定するのか?」
「笑った時に、どの形、どの色なら一番美しいのか?」
そうしたことを歯科医師と相談しながら考え、一つの治療を完成させるのは、やはり人の力です。
そして私は、歯科技工士不足の問題は、単純に「若い人が歯科技工士にならなくなった」という話だけで終わらせてはいけないと思っています。
なぜ若い人が目指さないのか?
なぜ資格を取っても離職してしまう人がいるのか?
給与、勤務時間、労働環境、そして専門職としての社会的評価。
歯科業界全体で真剣に考えなければならない問題です。
素晴らしい技術を持つ人には、それに見合った待遇が必要です。
そして若い人たちが、
「歯科技工士になりたい!」
「歯科技工士になって良かった!」
と思える職業にしていかなければなりません。
私たち歯科医師も、歯科技工士さんを単なる「外注先」と考えるのではなく、患者さんの治療を一緒に行う医療チームの大切なパートナーとして、もっと尊重する必要があると思います。
患者さんが鏡を見て、
「先生、きれいな歯が入りました!」
と喜んでくださった時、その笑顔の裏側には、歯科医師だけでなく、歯科技工士さんの努力があります。
患者さんからはなかなか見えない仕事です。
しかし、歯科技工士さんがいなければ、私たちの歯科医療は成り立ちません。
だからこそ私は、今回の新聞記事を読んで改めて強く感じました。
歯科技工士という素晴らしい仕事を、次の世代につないでいかなければならない。
歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手、受付スタッフ。
それぞれが専門性を発揮し、チームとして力を合わせて初めて、患者さんに良い歯科医療を提供することができます。
歯科技工士不足は、決して歯科技工士さんだけの問題ではありません。
日本の歯科医療の未来そのものに関わる問題なのです。
岡山なかの歯科・矯正歯科クリニックも、歯科技工士さんへの感謝を忘れず、これからも「チーム医療」を大切にしていきたいと思います。
そして若い方々に、ぜひ知ってもらいたい。
歯科技工士は、人の笑顔を自分の手でつくることができる、素晴らしい仕事です。
日本の高い歯科技工技術を、何とか次の世代へ。
私たち歯科医師も、本気で考える時が来ています。